2011.03.01 Tuesday
ラオス竹紙の旅記録14 儀式
2月15日 なんとか動けるまでに回復し、朝からナムディ村に出かける。
この日は儀式で竹紙を使うと聞いていたのだから、どうあっても行かねばならない。
土ぼこりをあげるでこぼこ道をトゥクトゥクに乗って出かける。
朝9時。村に入り、シンヘットさんの家を訪ねると、「よく来たよく来た」という感じで家の中に招き入れてもらう。1階ではシンヘットさんのお母さんを始め、女性達が何やら準備に忙しそうだ。
1階は土間、奥のほうのここが台所
火の煮炊きもここでしている。
2階に上がる。薄暗い中で、男性達は何やら準備らしきことをしている。
この人は村の村長さん。若手だがやり手、という感じ。
シンヘットさんの姿が見当たらないので「シンヘットさんはどこ?」と聞いたら、
別の男性が「あそこだよ」と教えてくれた。
2階の隅のビニールシートで覆われた中にシンヘットさんと弟さんがいるのだそうだ。兄弟二人一緒に成人の儀式を受ける。3日3晩ここから出てはいけない。食事も最低限しかとることができず、会話も禁じられているという。
村の男性は12歳から19歳の間にこの儀式を受ける。大学に行くような頭のいい人でもどんな人でもこの式を受けなければ大人にはなれない。結婚も出来ない。
「ここに入った人は皆このお酒を飲んでください」
と言われ、米で作ったお酒を出された。皿の上にお米が敷いてあり、そこにお金とお酒がおかれている。例の45度のラオス焼酎だ。
ひえ〜っと思ったが、式に参加する人は、皆このお酒を口にしなければいけないと言われ、決意を固める。
思い切っていただく。瓶にはショウガ?が入っていてすっきりした味だが、効くぅ。
皆に従って、お金も少々お供えする。
竹を組んで祭壇づくりが始まった。
竹紙を切ったり貼ったりしながら準備が進む。糊もご飯を炊いて作っている。この人たち、何でも一から作れるんだなあ。
村長は竹紙や色紙につぎつぎ筆で漢字を書いている。
なかなかの達筆だ。
この村長、ほんとにリーダーシップがみなぎっていて、頼りがいがありそう。
「何を書いているのですか?」と尋ねると、先祖の名前や精霊の名前を書いているとのこと。
ご先祖さまや精霊達にシンヘットさんが大人になることを伝え、成人式にみな呼び寄せるのだそうだ。彼らはシンヘットさんに力を与えてくれる。
よくこんなに名前を覚えているものだと思うくらい、つぎつぎ延々と名前が続く。
精霊は、木や石やいろいろなところにいるらしく、精霊のいる場所をたくさん書き記している。30〜50もいると言っていた。「八百万の神」という感覚かな。
村の精霊だけでなく、近隣の村の精霊も呼ぶのだと言う(ただし、家の中には村の精霊しか入れない)。
ご先祖さまと精霊の名前書き(招待状書き?)は数時間にわたって続いた。
村中の人が入れ替わり立ち替わりしながら延々と準備が進む。
年配者がときどき「こうしてやるんじゃ」と若い人にやり方を教えている。
若者達もかいがいしく、というほどではないが、「なんかやることあるっすかあ?」みたいな感じで、年配者の指示に従いながら手伝っている。すでに儀式を経験したものもいるし、これから行う若者達は「こんな風にやるのかあ」という見学の意味もあるようだ。
そして、シンヘットさんと弟さんはこもったまま出てくることはない。
いや、正確に言えば、一度ちらっともかけたことはあった。しかし、室内でも傘をさして顔を隠し、誰とも口もきかず、にこりともせずに、存在しないことになっている気配である。ものすごくまじめな表情で、最初にあったときのにこやかなシンヘットさんとは別人のようだ。目配せすら出来なかった。
午後2時半、だいぶ祭壇が出来てきた。
竹の土台に竹紙を貼り、飾りやお供え、灯明など竹紙で作られている。
竹紙や色紙にさまざまな長老の名前が書かれて貼られている。
祭壇づくりがおおむね出来たところで、シンヘットさんのご家族が食事を食べて行くよう誘ってくれた。
バナナの葉を敷いたテーブルに餅米を蒸したご飯とキャベツの炒め物、そして、トウガラシと塩を混ぜたものが盛りつけてある。
手伝っていた村人達も、みな食事をよばれている。私たちも。
それにしてもご飯とトウガラシ塩って、むちゃくちゃ合う。餅米がおいしいせいか、それだけで食が進む。みんなつぎつぎお代わりしている。
最初は私も一緒に席に着いたが、よく見たら男ばっかりだ。聞いたら、最初は男性が先に食べ、女性はそのあとに食べる、というので、この時は夫とニットさんが席に着いた。
私は女性陣と食べることにした。女子供の食卓。混じっている男性はシンヘットさんのお父さんなどの身内。
食事の後は、それぞれが洗い物をする。
同じ1階の土間の奥に流しがある。
水を溜めたたらいの中でささっとすすぐ。はい、おしまい。
じつは、私の食器も、男性陣が食べたあと、たらいでちょちょっとすすいだものをハイって渡された。すでにたらいの水は濁っている。
ちょっとだけひるんだが、村の人がよそ者の私たちにご飯ごちそうしてくれるんだよ。そんな機会あると思う? ここで食べないわけにはいかないでしょ。
でも、炊きたてのおこわとトウガラシ塩、ほんとにおいしかったんだ。
超シンプルで、それぞれの味が生きていて(前日までおなか壊してなければ、もっと食べられたんだけど)。キャベツも甘みがあっておいしかった。
すごくうれしい食卓でした。
(そんな機会、もう二度とないだろうと思ったけど、実はそれから3日間、毎日ご飯をごちそうになってしまった)
その後は、夜になってから、村の先生(長老)たちがシンヘットさんと弟さんにさまざまなしきたりや教えを伝える儀式があるということで、いったん村を出る。
明日になったらシンヘットさんは3日3晩のおこもりを終えて外に出てくるというので、明日も朝から村に来る約束をする。
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